同名企業の混同が招くトラブル事例。社名検索で別会社を掴まないためのチェックリスト
はじめまして、柏木悟と申します。
中堅の専門商社で26年間、審査部として新規取引先の信用調査と与信管理をやってきました。
いまは独立して、中小企業向けに取引先チェックの仕組みづくりを手伝っています。
その私が現役時代に一番ヒヤッとしたのが、実は「同名の別会社」でした。
社名で検索して出てきた情報を、疑いもせずに目の前の取引先の情報だと思い込む。
これ、経理や営業の現場では本当によく起きます。
この記事では、同名企業の混同が実際に招いたトラブルを紹介したうえで、別会社を掴まないための確認手順をチェックリストにまとめました。
新規取引の前に社名を検索する習慣がある方なら、そのまま実務に使えるはずです。
目次
住所さえ違えば、同じ社名の会社は何社でも作れる
まず前提からお話しします。
「同じ社名の会社が複数ある」こと自体は、違法でも珍しいことでもありません。
2006年に「類似商号規制」が廃止された
かつての商法には、同じ市町村内で同じ営業目的なら、同一・類似の商号を登記できないという規制がありました。
これが2006年の会社法施行にあわせて廃止されています。
現在残っているのは、商業登記法27条が定める「同一の所在場所における同一の商号」の登記禁止だけです。
つまり、住所が一つでも違えば、まったく同じ社名の会社を全国どこにでも作れます。
東京と大阪に同じ「株式会社〇〇」があっても、法律上は何の問題もないわけです。
もちろん、有名企業と誤認させる目的で紛らわしい社名を使えば、会社法8条や不正競争防止法の問題になります。
ただそれは「不正の目的」がある場合の話で、偶然の社名かぶりを止める仕組みはどこにもありません。
審査部時代、この仕組みを知らない営業担当は多いなと感じていました。
「社名が同じなら同じ会社」という思い込みは、制度を知らないところから生まれます。
5年間で「アシスト」という社名の会社が235社
では実際、どのくらい重複しているのか。
東京商工リサーチが2024年4月に公表した調査によると、2019年5月から2024年3月までの約5年間に設立された法人68万2,325社のうち、最も多かった商号は「アシスト」で235社でした。
「LINK」が231社、「NEXT」が191社、「Rise」が185社、「One」が184社と続きます。
調査の詳細は東京商工リサーチのTSRデータインサイトで公開されています。
5年間だけでこの数です。
それ以前に設立された会社も含めれば、同名企業はさらに増えます。
短い英字の社名やよくある言葉の社名なら、「同名の会社が他にもある」と考えるほうが自然です。
同名企業の混同が実際に招いたトラブル
制度の話だけだとピンとこないと思うので、実際に起きた事例を見ていきます。
無関係の会社に苦情が殺到した「誤爆」炎上
2019年1月、ティラミス専門店「HERO’S」をめぐる商標騒動がネットで炎上しました。
このとき、騒動とは一切関係のない同名の「株式会社HERO’S」(求人情報サイト運営)に、批判のメールや電話が殺到したと報じられています。
同社は「一切関係の無い企業です」と何度も表明する事態になりました。
キャリコネニュースが当時の経緯を報じています。
炎上した会社と社名が同じだった。
それだけの理由で、業務に支障が出るほどの苦情を受けたわけです。
問い合わせ・郵便物が別の同名会社に届く
炎上のような派手な話でなくても、混同は日常的に起きています。
象徴的なのが、東京と京都に併存した同名の出版社「文鳥社」のケースです。
東京側の代表がマネーフォワードの運営メディアで語ったところによると、相手方の書籍の問い合わせが自社のメールボックスに届いたことは一度や二度ではなかったそうです。
社名を商標登録していなかったことを、代表は後になって悔やんでいました。
先に名乗っていても、それだけでは同名の後発を防げないわけです。
似たような告知は、探すといくらでも見つかります。
- 「弊社と同名の会社への間違い電話が増えています」と公式サイトで注意喚起する企業が複数ある
- 中には、同名他社の代表者名が書かれた郵便物が自社に届いたと告知した会社もある
- 「弊社は無関係です。先方の正確な連絡先をご確認ください」とわざわざ専用ページを設けた会社もある
私自身、審査部時代に請求書の宛先確認で冷や汗をかいたことがあります。
社名だけを頼りに調べた振込先が、実は同名の別会社だったケースです。
送金前に法人番号を突き合わせて気づいたので実害はありませんでしたが、あのまま送金していたらと思うと今でもぞっとします。
反社チェック・与信調査での「人違い」
もう一つ深刻なのが、コンプライアンス調査での混同です。
反社チェックや与信調査を社名だけで行うと、無関係の同名企業のネガティブ情報を「該当あり」と誤判定してしまうことがあります。
いわゆる誤検知です。
逆のパターンもあります。
問題のある会社を調べたのに、検索上位に出てきた健全な同名企業の情報を見て「問題なし」と判断してしまう。
どちらに転んでも、取引機会の損失か、リスクの見逃しにつながります。
実務での判別は、社名以外の要素の突き合わせが基本です。
代表者名、本店所在地、設立年月日。
この3点が一致して、はじめて「同じ会社」と判断できます。
社名の一致は、判断材料としてはスタート地点にすぎません。
「株式会社HBS」で検索すると分かる同名企業のリアル
同名企業の混同がどう起きるか、具体的な社名で見てみましょう。
「株式会社HBS」という社名の会社は、国税庁の法人番号公表サイトで検索すると複数ヒットします。
神奈川県横浜市、東京都台東区、埼玉県深谷市、愛知県名古屋市と、それぞれ別の住所に同名の法人が存在しています(2026年8月時点)。
このうち横浜市港南区の株式会社HBSは、2023年11月に登記記録が閉鎖された法人です。
つまり、すでに存在しない会社と、現在も活動している同名の会社が、検索結果の中に同居していることになります。
実際、株式会社HBSと「ハイエンド」というワードが一緒に検索されている状況は、企業情報サイトの当該ページで確認できます。
「株式会社hbs 新潟」「株式会社hbs 深谷」「株式会社hbs 名古屋」といった地名付きの検索ワードも並んでおり、検索する側が「どのHBSなのか」を絞り込もうとしている様子がうかがえます。
社名だけで検索した人が、閉鎖済みの法人と営業中の法人を取り違えたり、別地域の同名企業の評判を見て判断したりする。
そういう混同が起きやすい条件がそろっている実例です。
口コミサイトや転職サイトの評判を参考にするときも同じです。
その口コミが「どの住所のHBSについて書かれたものか」が分からなければ、判断材料としては使えません。
3文字前後の英字社名では、こうした状況はまったく珍しくありません。
アルファベットの略称は各社が独自の由来で付けるため、偶然の一致がいくらでも起きるからです。
別会社を掴まないための3ステップ・チェックリスト
では、どう確認すれば別会社を掴まずに済むのか。
私が実務で使ってきた手順は、次の3ステップです。
手順1:法人番号で「1社」に特定する
最初にやるべきは、社名を法人番号に変換することです。
法人番号は13桁で、1つの法人に1つだけ指定され、重複しません。
国税庁の法人番号公表サイトで社名を検索し、所在地と組み合わせて目当ての1社を特定します。
同名企業が複数ヒットしても、住所まで見れば絞り込めます。
本店移転や商号変更の履歴、登記記録の閉鎖状況もこのサイトで確認できるので、「その会社がいま存在しているか」まで分かります。
検索のコツも少しだけ。
社名は部分一致で検索できるので、正式名称があやふやでも大丈夫です。
カナや英語表記でも探せますし、都道府県や市区町村での絞り込み、閉鎖した法人を除外するフィルターも用意されています。
同名が多い社名ほど、こうした絞り込みが効いてきます。
無料です。
新規取引の相手が決まったら、まずここで法人番号を控えてください。
手順2:インボイス登録番号と突き合わせる
相手から請求書や見積書を受け取っているなら、記載されたインボイス登録番号を照合します。
法人の登録番号は「T+13桁の法人番号」という構成なので、Tを外せば法人番号そのものです。
手順1で控えた番号と一致するかを見るだけで、書類の発行元が本当にその会社かを確かめられます。
国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトに登録番号を入力すれば、名称と本店所在地が表示されます。
注意点が一つあります。
このサイトは名称からの検索には対応していません。
名称から調べたいときは、先に法人番号公表サイトで13桁を特定し、頭にTを付けて照合する。
この順番で使うと迷いません。
手順3:登記情報で最終確認する
金額の大きい取引や継続取引に進むなら、登記情報まで確認します。
登記事項証明書には商号、本店、代表者、設立年月日、事業目的が記載されており、公的な証明力があります。
費用は法務省の案内によると、窓口での書面請求で1通600円、オンライン請求なら520円(郵送受取)です。
料金の詳細は法務省の登記手数料の案内ページにまとまっています。
閲覧だけでよければ、登記情報提供サービスで1件330円からPDFを確認する方法もあります(いずれも2026年8月時点の料金)。
数百円で代表者名まで公的に確認できるのですから、与信の初手としてはかなり安い投資だと思っています。
確認手順のチェックリスト
3ステップを表にまとめます。
新規取引の前に、上から順に埋めてみてください。
| 確認項目 | 使うもの | 確認できること |
|---|---|---|
| 法人番号の特定 | 国税庁法人番号公表サイト(無料) | 社名+住所で1社に特定。閉鎖・移転の履歴 |
| 登録番号の照合 | インボイス公表サイト(無料) | 請求書の発行元が本人かどうか |
| 登記の最終確認 | 登記事項証明書・登記情報提供サービス(330円〜) | 代表者・設立年月日・事業目的 |
あわせて、日常の運用では次の点も意識してください。
- 検索結果の口コミや評判を見るときは、所在地と法人番号が一致しているかを先に確かめる
- 社内の取引先マスタには社名だけでなく法人番号を必ず登録する
- 同名企業の存在に気づいたら、その旨をメモとして残し、担当交代時に引き継ぐ
- 継続取引先も年に一度は法人番号公表サイトで移転・閉鎖の履歴を見直す
特におすすめしたいのが、取引先マスタへの法人番号の登録です。
一度登録してしまえば、その後の反社チェックも与信の見直しも、番号を軸に機械的に回せます。
私が支援している会社では、この一手間を入れただけで同名混同の照会ミスがゼロになりました。
仕組みで防げる事故は、仕組みで防ぐのが一番安上がりです。
まとめ
同名の会社は、住所さえ違えば合法的にいくつでも存在します。
5年間で「アシスト」だけで235社という数字が、その現実を物語っています。
そして混同は、炎上の誤爆、書類の誤送、反社チェックの誤判定といった形で、実際にトラブルを引き起こしてきました。
対策はシンプルです。
社名ではなく、法人番号で会社を特定する。
法人番号の特定、インボイス登録番号の照合、登記情報の確認という3ステップなら、費用はほぼゼロから数百円で済みます。
取引先を調べるのは、相手を疑う失礼な行為ではありません。
お互いを間違いから守る作法です。
次に新しい会社と名刺交換をしたら、まず法人番号を検索してみてください。
それだけで、同名の別会社を掴む事故はほぼ防げます。



