エステ業界の新卒離職率は本当に高いのか、データと現場の声から考える
はじめまして、桜井明日香です。
美容業界専門の人材紹介会社で、新卒紹介チームのキャリアアドバイザーとして2年間働いていました。
在職中は、美容専門学校生や大学生からのエステ業界就活相談を数えきれないほど受けてきました。
取材で全国50社以上のサロンや美容クリニックを訪ね、現場のスタッフや店長、人事担当者に直接話を聞く機会にも恵まれました。
いま独立してフリーライターとして活動していますが、それでも変わらず耳にする質問があります。
「エステ業界って、新卒はすぐ辞めるんですよね」というものです。
たしかにSNSや口コミサイトを見ると、厳しい声が目に留まります。
一方で、実際のデータと現場の声を突き合わせてみると、イメージと実態にはズレもあります。
この記事では、公的統計や業界調査のデータをもとに、エステ業界の新卒離職率が本当のところどうなのかを整理します。
あわせて、離職を防ぐために企業側がどんな工夫をしているのかも、実例を交えて紹介します。
キャリアアドバイザー時代、私自身も「離職率」という言葉だけで会社を判断する就活生を何人も見てきました。
数字は大事な判断材料ですが、それだけで会社の良し悪しは決まりません。
これからエステ業界を目指す方、あるいはお子さんの進路として気になっている保護者の方の、判断材料になればうれしいです。
目次
「エステ業界は離職率が高い」というイメージ、どこから来ているのか
就活サイトやQ&Aサイトを見ていると、「エステ業界は離職率68.9%」「新卒の7割は1年で辞める」といった数字を目にすることがあります。
正直なところ、これらの数字の出どころははっきりしません。
個人のブログや口コミサイトの体験談がもとになっているケースが多く、公的な統計と結び付けて確認できませんでした。
数字だけが独り歩きしている、というのが実情に近いと思います。
もちろん、根も葉もない話というわけではありません。
女性中心の職場ならではの人間関係、キラキラしたイメージと地道な実務とのギャップ、立ち仕事による体力的な負担。
離職理由として挙げられやすいポイントは、実際に存在します。
ただ、こうした断片的な情報だけで「エステ業界はブラック」と決めつけるのは早計です。
SNSで拡散されている数字の多くは、出典が示されないまま何度も引用され、いつのまにか「定説」のように扱われています。
一次情報にあたらずに不安だけが積み重なっていく、というのはよくある構図です。
まずは、信頼できる統計データから実態を見ていきます。
公的データで見る、エステ業界を含む「生活関連サービス業」の離職率
厚生労働省の令和6年雇用動向調査結果の概況によると、産業別の離職率(一般労働者)は次のようになっています。
| 産業 | 離職率 | 入職率 |
|---|---|---|
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 16.9% | 17.0% |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 18.1% | 21.2% |
| サービス業(他に分類されないもの) | 19.0% | 19.4% |
| 産業計(全産業平均) | 11.5% | 11.8% |
エステティックサロンは、この「生活関連サービス業,娯楽業」という分類に含まれます。
離職率は16.9%で、全産業平均の11.5%より高めです。
ただし、この分類には美容室やクリーニング店、リラクゼーションサロン、娯楽施設なども含まれています。
エステ業界単体を切り出した統計ではない、という点は押さえておく必要があります。
なお、同じ調査ではパートタイム労働者を含めた数値も公表されています。
「生活関連サービス業,娯楽業」全体(パートタイム含む)で見ると、離職率は19.0%、入職率は20.6%まで上がります。
新卒で正社員として入社する場合に近いのは、パートタイムを含まない一般労働者の数値です。
求人票を見るときは、どちらの区分の数字を見ているのか、意識しておくと誤解が減ります。
厚生労働省は新規学卒者の離職状況というデータも公開しています。
学歴別・産業別の新卒3年以内離職率を確認できるので、業界研究の際に目を通しておくと安心です。
新卒はどこでつまずくのか、業界調査から見える3つのギャップ
株式会社リクルートが2026年に実施した美容サロン就業実態調査2026では、美容サロン従事者3,170人を対象に就業実態を調べています。
この調査では、初職を3年未満で離職した人が42.5%にのぼるという結果が出ています。
6カ月未満での離職も9.6%と、決して少なくありません。
離職者が新卒入社時に感じたギャップとして多かったのは、給与50.2%、労働時間45.3%、休日・休暇38.0%でした。
数字よりも「思っていたのと違った」という感覚のズレが、早期離職の引き金になっている。
そう読み取れる結果です。
なお、この調査は美容師のデータを中心にまとめられており、エステティシャンだけの数値ではありません。
それでも、美容系サロン業界全体に共通する傾向として参考になります。
美容師の離職率、過去最低の46.5%にというホットペッパービューティーアカデミーの記事では、2023年の美容師離職率が過去最低の46.5%だったと紹介されています。
その上で、エステやリラク、ネイル、アイなどの職種は、美容師より離職率が高い傾向にあるとも分析されています。
資格が必須の美容師と違い、無資格でも始められる職種は間口が広い分、ミスマッチも起きやすい。
そんな見方です。
これらのデータを総合すると、新卒がつまずきやすいポイントは次の3つに整理できます。
- 給与や待遇が、入社前のイメージと違った
- 実働時間や休日の取りやすさが、思っていたより厳しかった
- 華やかなイメージと、地道な接客・技術習得のギャップに戸惑った
この3つのギャップには、共通する背景があります。
求人票の初任給には固定残業代が含まれているケースが多く、額面だけを見て「思ったより手取りが少ない」と感じる新卒は少なくありません。
シフト制の勤務体系も、土日休みに慣れた学生時代の感覚とはズレが生じやすいところです。
数字の意味を入社前に理解しているかどうかで、入社後の納得感は大きく変わってきます。
現場の声、良い評判と厳しい評判の両方
口コミサイトを見ると、エステ業界の職場に対する評価は分かれています。
良い評判として多いのは、次のような声です。
- 技術力の高さや、指名につながる接客スキルが身につく
- 頑張りが給与や評価に反映される仕組みがある
- お客様との関係性から得られるやりがいが大きい
一方で、厳しい声として目立つのは、次のような内容です。
- 開店前の技術練習で拘束時間が伸びることがある
- 目標達成へのプレッシャーが強いと感じる人がいる
- 家庭やプライベートとの両立が難しいと感じる時期がある
評価が分かれる理由は、シンプルです。
口コミは投稿者個人の経験や、配属された店舗の環境に大きく左右されます。
同じ会社でも、店舗によって雰囲気やマネジメントの質が違う。
これはどの業界でも起こりうることです。
だからこそ、就活の段階で「会社としてどんな制度を用意しているか」を確認しておくことが大切になります。
制度が整っている会社ほど、店舗ごとの差を埋める土台があると考えられるからです。
口コミを読むときは、投稿件数や投稿時期にも目を向けてみてください。
1件の極端な体験談より、複数の投稿に共通して出てくる傾向のほうが、実態に近いことが多いです。
定着率を上げるために、企業はどんな工夫をしているのか
離職率の高さが指摘されがちな業界だからこそ、大手を中心に定着支援の取り組みが進んでいます。
一例として、たかの友梨ビューティクリニックの新卒採用ページを見てみます。
同社の採用サイトによれば、未経験入社者向けに研修費・研修教材費を無料にした上で、入社後、3カ月後、6カ月後と段階的な研修を用意しています。
本社での研修時には、遠方出身者向けの研修寮も用意されているとのことです。
働き方の面では、3時間単位で早上がり・遅出ができる「3H制度」や、定休日以外にも柔軟に休みを取れる「フレックス休日制度」を導入しています。
現場スタッフの残業時間は月平均13.3時間(2025年12月時点、同社発表)で、残業代は1分単位で支給されると案内されています。
子育てとの両立支援も具体的です。
育児ショートタイム勤務、看護休暇、残業免除制度があり、実際に育児休業からエステティシャンとして復帰した社員のインタビューも掲載されていました。
また、ノルマは設けておらず、未達成によるペナルティや減給もないと明記されています。
未経験からスタートして店長やリーダーになる、講師として技術指導にあたる、独立する。
複数のキャリアパスが用意されている点も特徴です。
働く場所についても、選択肢が用意されています。
転居を伴う異動がない「地域社員」と、転勤の可能性がある「総合社員」に区分されており、UターンやIターンでの勤務地変更にも対応しているとのことです。
一度退職した人の再就職を歓迎する再雇用制度がある点も見逃せません。
「辞めたら終わり」ではなく「戻ってくることもできる」仕組みは、結婚や出産、家族の転勤といったライフイベントで一度現場を離れた人にとって、心理的なハードルを下げる要素になります。
こうした制度の詳細は、たかの友梨で社員として働く際の採用情報ページにまとまっています。
研修制度や休暇制度の中身は、就活の際に会社を比較する材料として役立つはずです。
入社前にチェックしておきたいポイント
離職率のデータや企業の取り組みを踏まえると、就活生が求人票や採用ページを見るときに確認すべきポイントが見えてきます。
| チェック項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 固定残業代の内訳 | 何時間分が含まれているか、超過分の支給方法を確認する |
| 研修制度の具体性 | 期間・内容・費用負担が明記されているか確認する |
| 転勤の有無と条件 | 地域限定か転勤ありかで、働き方が大きく変わる |
| 休日・休暇制度 | 定休日の日数と、有給以外の休暇制度の充実度を見る |
| ノルマの有無 | ノルマがある場合、未達成時の扱いも確認しておく |
| ライフイベント対応 | 産休育休の取得実績、時短勤務の使いやすさを見る |
なかでも見落とされがちなのが、固定残業代の内訳です。
「月給25万円」と書かれていても、その中に何時間分の残業代が含まれているかで、実際の時給換算はかなり変わってきます。
超過分がきちんと1分単位で追加支給されるかどうかも、あわせて確認しておきたいポイントです。
資格や技術基準について詳しく知りたい場合は、一般社団法人日本エステティック業協会(AJESTHE)の情報も参考になります。
業界団体としての認定資格制度や、業界全体の動きを把握できます。
面接の場では、こうした条件を直接質問しても問題ありません。
むしろ、入社前にきちんと確認する姿勢は、採用担当者からもマイナスには受け取られにくいものです。
- 「研修は何カ月かけて、どんな内容を行いますか」
- 「転勤の可能性はありますか。ある場合、頻度や期間を教えてください」
- 「産休・育休を取得した社員は、実際にどのくらいいますか」
このあたりを事前に聞いておくだけで、入社後のギャップはかなり減らせます。
離職は「失敗」ではなく「選択」として捉えられている
エステ業界に限らず、新卒で入った会社を数年で離れることは、いまや珍しい話ではありません。
厚生労働省の雇用動向調査でも、生活関連サービス業,娯楽業の入職率は17.0%と、離職率の16.9%とほぼ同水準でした。
辞める人がいる一方で、同じくらいの人数が新しく入ってきている。
業界全体で見れば、人の出入りが激しいというより、循環しているという表現の方が近いかもしれません。
一つの会社に長く勤め続けることだけが、正解というわけではありません。
自分に合う店舗や働き方を探しながら、業界内でキャリアを積み直す道も、選択肢の一つとして考えられます。
だからこそ、就活の段階で「この会社が完璧に自分に合うか」を過度に恐れる必要はありません。
むしろ、入社後に違和感があったときに相談できる窓口があるか、いったん離れても再雇用してもらえる制度があるかを、あらかじめ確認しておく方が現実的です。
まとめ
エステ業界の離職率については、根拠のあいまいな数字が独り歩きしている面があります。
厚生労働省の統計で見る限り、エステ業界を含む「生活関連サービス業」の離職率は16.9%で、全産業平均の11.5%より高いものの、噂されるほど突出した数字ではありません。
一方で、業界調査からは、給与や労働時間、休日に対するイメージと実態のギャップが、新卒の早期離職につながりやすいことも見えてきました。
数字だけを鵜呑みにせず、研修制度や休暇制度、ノルマの有無といった具体的な条件を、自分の目で確認する。
それが、入社後のミスマッチを避ける一番の近道です。
華やかに見える仕事だからこそ、地に足のついた情報収集を大切にしてください。
保護者の立場で心配されている方にも、同じことが言えます。
「離職率が高いらしい」という噂だけで反対するのではなく、お子さんと一緒に採用ページや公的データを確認してみる。
それだけで、進路選びの納得感はずいぶん変わってくるはずです。



