混合ディスペンスの真髄!0.01mLのズレが製品を変える理由

「1滴の精度に、1ミクロンの情熱を。」

精密機器メーカーで働き始めた頃、私はスマートフォン用カメラモジュールの接着工程を担当していました。

その時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。

使用する接着剤が、たった0.02mL多いだけで、その後の硬化プロセスやモジュール全体の歩留まりが大幅に落ちてしまったのです。

このわずか0.02mLという“誤差”は、生産ライン全体の品質とコストを根底から揺るがしました。

なぜ、製造現場の心臓部とも言えるディスペンス工程、それも特に「混合ディスペンス」において、0.01mL、いや、それ以下の精度がここまで製品の命運を分けるのでしょうか?

この記事では、ディスペンス技術の奥深さに魅せられ、吐出誤差率を従来比60%削減してきた私、白石拓真が、混合ディスペンスにおける微小なズレが製品品質を決定づける論理と現場の真実を、優しく翻訳してお伝えします。

この記事を読めば、あなたはディスペンサの仕組みや選び方を「理屈でなく感覚で理解できる」ようになるでしょう。

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混合ディスペンスの「なぜ」? 0.01mLが命取りになる原理

混合ディスペンスとは、主に2種類の液剤(主剤と硬化剤など)を混ぜ合わせ、同時に吐出する技術を指します。

これは、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの2液性材料を扱う上で避けて通れないプロセスです。

混合比率のズレは「化学反応の停止」を意味する

2液性材料は、A液とB液を定められた混合比率(例:1:1、10:1)で混ぜ合わせることで、初めて所定の硬度や強度、電気特性といった「製品が求める性能」を発揮します。

この比率が少しでも狂うと、硬化反応のプロセスに致命的な影響が出るのです。

たとえば、主剤に対して硬化剤が0.01mLだけ少なく吐出されたと想像してください。

硬化不足

未反応の主剤や硬化剤が残り、製品の強度が設計値に達しない。

電気特性の変動

電子部品においては、絶縁性や耐熱性といった特性が不安定になる。

液垂れ・漏れ

半硬化状態のまま製品から液剤が流れ出し、周辺部品を汚染する。

つまり、0.01mLのズレは、単なる「量の問題」ではなく、製品の信頼性を担保する「化学のバランス」を崩壊させることを意味します。

ディスペンサは、ものづくりの心臓であり、その吐出精度は、製品の呼吸そのものなのです。

現場が教える!精度が歩留まりを左右した事例

私がかつて経験した、スマートフォン用カメラモジュールの事例はまさにこの典型でした。

小型化・高機能化が進む電子部品の製造現場では、接着剤の塗布位置も量も、すべてミクロン単位で管理されます。

リサーチ結果でも示されているように、精密ディスペンサーは、スマートフォンやEV(電気自動車)、さらには医療機器といった最先端分野で欠かせない存在です。

吐出量の僅かな「ムラ」が起こした大問題

カメラモジュールの極小レンズを固定する接着工程で、わずかに吐出量の多かったロットは、硬化後の接着剤がレンズの光路に微細にはみ出し、光学的性能を低下させていました。

この問題を解決するため、私は吐出量制御アルゴリズムのパラメータを根本から見直すプロジェクトに参画しました。

その結果、吐出時の「圧力変動」と「液剤の粘度変化」をリアルタイムで補正するシステムを導入。

最終的に、吐出誤差率を従来比60%も削減することに成功し、不良品の発生を劇的に抑え、ラインの歩留まり向上に貢献しました。

この経験から、「見えない部分こそ、ものづくりの魂が宿る場所だ」という信念がさらに強くなりました。

精度を次の次元へ!ディスペンス誤差60%削減の改善策

では、どうすればこの微小な誤差を克服し、再現性の高いディスペンスを実現できるのでしょうか。

それは「装置」と「姿勢」、この二つの側面からのアプローチが必要です。

1. 容積移送式ディスペンサへの進化

従来のエア圧送式やシリンジ式では、液剤の粘度や容器内の残量、供給圧の変動によって吐出量がブレやすいという弱点がありました。

私たちが採用し、大きな成果を出したのが容積移送式ディスペンサです。

これは「エンドレス・ピストン原理」とも呼ばれ、モーター駆動でローターが回転し、液剤を連続して一定の容積で押し出す仕組みです。

  • 圧力、温度、時間の影響が極めて少ない
  • 脈動(ムラ)のない安定した連続吐出が可能
  • 繰り返し精度が±1%以内(>99%)と極めて高い

この技術は、外部環境に左右されない、「時計」のような安定性で吐出量をコントロールします。

2. 「技術者の慢心」を排した検証の徹底

しかし、どれほど高性能な装置を導入しても、それを扱う技術者の姿勢が最も重要です。

独立初期にアルゴリズム設定のミスで生産を一時停止させてしまった失敗談は、私にとって最大の教訓となりました。

あの時、数千万円の損失が出かけた経験から学んだのは、「技術者の慢心こそ最大のリスク」だということです。

「理屈で理解する」だけでなく、吐出された液を実際に計測し、重量や寸法を分析する「現場の検証」を徹底するプロセスが不可欠なのです。

まとめ:精度は数字じゃない、“姿勢”だ。

混合ディスペンスにおける0.01mLのズレは、単なる誤差ではなく、製品の信頼性、そして企業のコスト効率を左右する致命的な欠陥につながります。

精密ディスペンスとは、

  1. 混合比の化学的バランスを維持すること
  2. 外部環境に左右されない安定した容積制御を行うこと

この二つを突き詰めるプロセスに他なりません。

そして、その全てを支えるのは、私たち技術者の「精度に対する姿勢」です。

今日からあなたの現場で試してほしい小さな改善アクションは、「吐出量のバラツキを測定し、その原因を『外部環境』に求めていないか?」を問い直すことです。

装置のカタログスペックに満足せず、再現性(Precision)を高めるための努力を続けていきましょう。

最後に、私の決め台詞をもって、この記事を締めくくりたいと思います。

精度は数字じゃない、“姿勢”だ。

あなたの現場の精度と誇りが、ひとつ上の次元へ進むことを心から願っています。